Posted 10月 19, 2020
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公開予定作品のプレビュー



Pixar 作品「Automaton」のメイキング

監督 Krzysztof Rost 氏、プロデュース Michael K. O’Brien 氏による Pixar の短編映画「Automaton」は、SIGGRAPH 2020 コンピュータアニメーションフェスティバルでプレミア上映されました。Pixar には長年にわたる短編 CG アニメーションの歴史がありますが、「Automaton」は、これまでの短編作品とは少し違います。



Michael O'Brien
プロデューサ
Krzysztof Rost
監督


「Automaton」のアイデアが生まれた背景

Rost 氏によると、「Automaton」は、テレンス・マリックやミケランジェロ・アントニオーニといった監督の作品に着想を得ているそうです。「彼らの映画制作に対するアーティスティックなアプローチに対して、私が興味を引かれるのは、観客にストーリーを示す方法が詩的なところです。彼らの映画では、風景や自然現象のショットが、人間の登場人物たちと超自然的に並置される形で使われ、それが精神的とも言える体験を作り出しています」

「この短編映画では、現実 (あるがままの自然) をメインキャラクタに設定し、破壊と創造という無限に繰り返されるプロセスの源泉にある力の謎を探求したいと考えました。タイトルの「Automaton」 (自動装置) もこのアイデアからきています」

本作のために描かれた、コンセプトアート



Rost 氏の制作プロセスは、絵画と初期の表現方法の記述から始まりました。それを発展させ、コンセプト画、カメラの動き、スペースなどを概要書としてまとめました。「音に関しては、作品の冒頭は自然の効果音だけにして、映像の抽象度が増してきたら徐々に音楽に移行しようと考えました」と、Rost 氏。

次に、アニマティクスを Houdini だけで作りあげ、ショットごとに構図とタイミングを入念に計画しました。チームはこのアニマティクスにしたがって、最終レンダリング画像を作りあげていくことになります。

制作パイプライン

Pixar の一般的な制作パイプラインでは、ライティングに Katana と USD パイプラインを使っています。しかし作業の大半をエフェクト部門が担当した「Automaton」では、ライティングにも Houdini を活用したいと考えました。

Pixar のライティングパイプラインは、"coarse-to-fine" (はじめは全体をざっくり、そして細部へ) のアプローチを採用しています。Pixar の映画作品では、マスターライターが各ロケーションやルックごとに、全体的なライティングリグを一つ作成、パケットライティングにより、シーケンスを似たようなショットだけの小さなパケットに区切ります。そして個々のショットは、ショット特有のディテールを引き立て、あるいは演出するよう調整されます。「Automaton」では、James Gettinger 氏が映画作品と同様のパイプラインとワークフローを構築し、Hosuk Chang 氏が考案した LiveSubnet を活用しました。

「Automaton」を形にできたのは、LiveSubnet の力が大きく貢献しています。O’Brien 氏は次のように語っています。「Houdini デジタルアセットは、その中の機能を作成したり、上位のパラメータと共有するのに大変便利です。しかし、私たちが欲しかったのは、単一の Houdini シーンに対して複数のアーティストが作業できる仕組みでした。Hosuk Chang 氏の LiveSubnet を使うと、1 つの Houdini ファイル内でスペースを管理できます。これによって、複数のアーティストが同時に作業できました。また、複数のファイルで単一のサブネットを参照できるので、ショットをまたがって作業を共有するようにもできます」

「Automaton」のアニマティクスは Houdini で作成



最終的には、全体のレイヤリングと基本的なライティングは再上位の LiveSubnet で行い、これで RenderMan ROP 一式をを定義、レンダーファームに送信可能にしました。パケットはマスターライティンググループ内に埋め込んで、同様のショットを調整する場所を設けました。

各パケットにショットの LiveSubnet を含め、ショットの最終調整ができるようにしました。ライティング TD の James Gettinger 氏はこう語っています。「LiveSubnet のおかげで、長編映画の制作と同様、"coarse-to-fine" で進めることができました。レンダリングには RenderMan を使い、レンダーパスの合成、光学エフェクトの追加、カラーグレーディングには Nuke を使用しました。ライティング、レンダリング、合成のワークフローは、Pixarの長編映画のパイプラインをモデルにしています」

シミュレーションの挑戦

「Automaton」には草や火などのシミュレーションが大量にあり、どれも Houdini で処理しました。

草のセットアップとシミュレーションをすべて担当したのは、Tolga Goktekin 氏です。Rost 氏はこう語っています。「カメラに近い領域では Vellum を使い、高密度の草のシミュレーションを実行しました。中景および背景の草は、ヘアのシミュレーションで処理しました。プロジェクトの開始時点から、旋風や火などのシミュレーションの速度フィールドを共用することは全員が合意していました。草の動作だけでなく、火の粉や灰も同じ速度フィールドで移流させることで、一体感を持たせたかったからです。旋風を処理した Enrique Villa が速度フィールドを Tolga Goktekin に渡し、それを草の移流に使用しました」

Michael Hall 氏は火を担当し、クラスタシステムを使って大規模なシミュレーションを実行しました。Rost 氏は、こう語っています。「ところが俯瞰のショットで特有の問題が発生し、やや異なるソリューションが必要になりました。問題は、カメラの位置と、上から見たときの火の筋の進み方をどう表現するかです。シミュレーションはそのままクラスタシステムで実行しましたが、ショットの本来のアーティスティックなビジョンを損なわないようにするためには、火の形を意図した角度に保つ必要がありました。

制作中の火のシェーダのテストショット



草の移流に、Michael Hall 氏が地上の燃焼シグナルを渡し、Tolga Goktekin 氏が草の縮小、シェーディングの変更、ノイズの追加を行いました。「灰と火の粉にも同じロジックを利用しました。Michael から渡された火の速度シミュレーションデータを使用して、Tobin Jones が小さいパーティクルを動き回らせました」と、Rost 氏。

火に焼き尽くされた後を描いた場面では、Cody Harrington 氏が Pyro シミュレーションのライブラリを生成、立ち上る煙をショットに配置、リタイム、合成しました。煙のライブラリの一部は、別のショットでも再利用されています。

後半の抽象的なパートは、雨降りのシーンで始まりますが、Enrique Vila 氏が使ったのは FLIP Solver です。「Carl Kaphan と私は、プロシージャルアニメーション、Flip、Pyro Solver、クラスタリングテクニックを組み合わせて、残りの抽象ショットに取り組みました。これらのショットは独立し、他とは異なっていたので、速度フィールドなどのシミュレーションの副産物を共有は不要でした」と、Rost 氏。

新しいアイデア

Rost 氏と O’Brien 氏は「Automaton」の制作体験をこう形容しています。「気持ちが一新できました。いつもの仕事とはまるきり違う、新たなことに挑戦できたからです。この短編映画は、ストーリーテリングにおいても、アートの観点においても、私たちの従来の作品とは一線を画します。また、Houdini をいつもとは違う方法で活用できました」

両氏は続けます。「本作の後半は、非常に抽象的な画で構成されています。その画像を創り出す過程では、プロシージャルツールセットとして、および多様なアイデアに合わせてビジュアルを切り替えられるフレームワークとして、Houdini はその強みを大いに発揮してくれました」




コメント

  • OvidiuChiriac 3 年, 10 ヶ月 前  | 

    Nice One.

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