Posted 6月 02, 2015
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映画『ベイマックス』で、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオは、架空の街サンフランソウキョウを舞台に天才的な科学的才能をロボット工学に生かし地元のロボット・ファイトに精を出す少年ヒロを描いている。家族に起こった悲劇に打ちのめされていたヒロだが、大学のスーパーヒーロー・エリートチームの一員として新たな目標を見出す。傍らには、高度な医療用ロボットとして開発され、ヒロが究極の戦闘ロボットに改造したベイマックスがいた。 

映画のストーリーは、ヒロの盗まれたマイクロボットを奪還すべく、ヒーロー6人組が団結して歌舞伎の仮面を被った悪役と戦うというものだ。この小型ながらもパワフルなマイクロボットは、人間の思い通りに変形する集合体を形成し、素晴らしいことも破壊的なことも可能にする画期的な発明だ。

この映画の中で使われているあらゆるテクノロジは、クリエイティブなプロセスを下支えするものでなければならなかった。多数のマイクロボットの集合体の形成も、ベイマックスのエンジンへの噴射煙や飛行機雲の追加も、異次元世界の現実化も、 Houdini のプロシージャルなツールセットによってワークフローを効率化、迅速に試行錯誤の繰り返しによりクオリティの高い VFX を完成させた。

マイクロボット

プロジェクトの初期段階から、マイクロボットがエフェクト制作における最大の課題になると考えていました。


Henrik Fält, Effects Lead

端的に言えば、マイクロボットは中心となる球体に磁力で二本の脚を付けたものだ。シンプルな作りゆえ様々な動きが可能で、他のマイクロボットと多様に連 結・連動することができる。マイクロボットは、自由に発想されたアイデアを物理的形状に変換する神経頭蓋トランスミッタを通じてコントロールされる。個々 のマイクロボット単体は全長1.5インチほどであるため、絵コンテで指示されている動きやスケールを表現するためには、大量のマイクロボットが必要とされ た。マイクロボットはおよそ300のショットに登場し、その多くの場合、一度に数千万単位でスクリーンに映し出された。

「プロジェクトの初期段階から、マイクロボットがエフェクト制作における最大の課題になると考えていました。」ウォルト・ディズニー・アニメーション・ス タジオでエフェクトリーダーを務める Henrik Fält 氏は言う。「完成させなければならないマイクロボットのショットが数百にも及び、非常に特殊なアートディレクションとアニメーション制御が必要だったた め、群集や流体などシミュレーションベースのワークフローは選択しませんでした。代わりに、 Houdini のサーフェスオペレータ (SOP) コンテキストに適したプロシージャルな階層化アプローチを採用しました。」

マイクロボットをコントロールするにあたり、アーティストが生成したガイドカーブやベースカーブを利用することに基づいたワークフローを設計し、集合体と してのマイクロボットの動きを演出した。アーティストの DJ Byun 氏は、 VEX を最大限に活用して Houdini デジタルアセット (HDA) を作成し、こうしたカーブに沿ってマイクロボットの編成を制御した。その結果、基本的なアニメーションをブロックアウトして試行錯誤の作業が迅速に行える ようになった。 Houdini のプロシージャルなワークフローにより、こうした簡易化されたアニメーションを用いて精巧な美の表現が実現したのだ。  

ガイドカーブは、ショットの要件に従い様々な方法で構築された。アニメーションチームが作成したプロキシアニメーションやパーティクルの軌跡を基にするこ ともあれば、手描きのカーブを使うこともあった。ミスターカブキがマイクロボットに乗ってサンフランソウキョウの通りを走り抜ける際に使用したリグに沿っ て、アニメーションしたケースもあった。

マイクロボットの軌跡の特徴は、設計回路のような規則性を帯びていることだ。ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの Alexey Stomakhin 氏は Houdini Developer Kit (HDK) を用いて、滑らかなカーブを (3次元) 設計回路の規則性に則ったカーブに変換するためのカスタムツールを作成した。このツールによって、入力カーブから出力カーブのズレを制御し、マイクロボットの回転頻度を定義した。さらにこのツールを用いて理想的な角度の制御も行われ、概して、45度に曲がるカーブは90度よりも美的訴求力があった。

モジュール的アプローチ

小規模なモジュール形ツールセットが、様々な異なるカーブに沿って移動するマイクロボットのルックを定めるために Houdini デジタルアセットを使用して構築された。このモジュール的アプローチにより、複雑な作業を規模の小さな扱いやすい単位に分割することもできるようになっ た。

マイクロボットのアニメーションを支援するために、全部で20ほどのツールが作成されたが、大きく分けて以下のように分類される:

  • パターン生成 | 回路生成:  一つ以上の入力カーブを取り込み、設計回路の論理に従い入力カーブに沿って新たなカーブを生成するアセット。こうしたパターン生成ツールには、アニメーション、入力カーブからのオフセット、カーブの屈曲頻度など、幅広いユーザーコントロール性能を備えていた。
  • バンドリング | 継ぎ目コピー: 入力カーブを複製し、ボリュームを充填してルックの調整を行うアセット。
  • 歩行サイクル | フリッパー: アニメーションの生成を支援するアセット。マイクロボットは互いに入れ違いになりながら、機械的群集サーフィングと表現できるように、カーブに沿って磁石 の脚で移動する。この歩行サイクルは VEX コードで定義された上に HDA にカプセル化され、速度、リズム、屈曲角度やそのバリエーションについて幅広い制御を可能にした。
  • Animating | Carving: 特に動きの速い大規模な集合体の場合、すべてのマイクロボットに一度に歩行サイクルを適用させると、非常に混沌とした印象のルックになってしまった。これ らのアセットはこうした問題を解決するために開発され、生成カーブに沿ってマイクロボットを“スライド”した後 (速度、リズム、バリエーション等の制御が可能)、マイクロボット集合体の端の部分中心に歩行サイクルを部分的に適用した。
  • リグ: アーティストがショット作成の足がかりに使用するためのより高度なリグ作成用のアセット。これらのアセットには、地面に沿ってマイクロボットを移動させる ための lava (溶岩) アセット - 後にあらゆるサーフェスで用いることができるように拡張 - また高速で動くスパイクのような触手アセットも含まれた。

こうしたツールはすべて同様のインターフェースで操作され、アトリビュートにより下流ノードへインターフェースの設定を伝播し、アセット同士を異なる順序で接続することで異なるルックや異なる機能を大型のリグに与えるモジュール的ワークフローを実現した。

初飛行 | 煙と飛行機雲の生成

最も大変だったのは、100以上のショットに使用できるシンプルな解決策を見出すことで、そのうち40のショットが初飛行のシーケンスのものでした。


Blair Pierpont, Effects Artist

ヒロがベイマックスに改良を施し、翼とロケットエンジンを装備させたことが、2人がマッハ1に迫る速度でサンフランソウキョウの空を駆け抜けるシーンにつ ながった。この飛行シーケンスの準備段階では、アーティストはジェット戦闘機エンジンに関する様々な参考資料の調査を行い、ディレクタの Don Hall 、Chris Williams の両氏とともにレビューをした結果、視覚的な面白味がありながら現実に基づいたデザインが採用された。ベイマックスが急旋回した際にできる煙や飛行機雲の 自然な位置、迅速なスロットル調整、アクロバットについても検討が行われた。エンジンへの熱歪の表現も必要だった。

「最も大変だったのは、100以上のショットに使用できるシンプルな解決策を見出すことで、そのうち40のショットが初飛行のシーケンスのものでした。」 ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオのエフェクトアーティスト、 Blair Pierpont 氏は言う。「ベイマックスが高速で飛行するため、ショットによっては、その飛行機雲の長さが数キロメートルにも及んでしまうことも考えられました。ディレ クタは、煙や飛行機雲の発生のタイミングをより正確にコントロールすることを望んだので、キャラクタアニメータの作業負荷は倍加しかねませんでした。さら に、初飛行のシーケンスは一月以内に提出しなければならなかったのです。」

ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオは、ベイマックスのエンジンを再びモジュール化し、炎、煙そして飛行機雲の3つの部分に分割した。煙と飛 行機雲の設定は Houdini の CHOP、VDBと Volume Rasterize ノードを使用し、炎についてはさらに、中心部と衝撃波、縁部に再分割した。

「単一の方法に縛られずに、柔軟に作業を行えたことは非常に良かったと思います。設定で想定していなかったことをディレクタが要求したとしても、それを実 現する方法を見出す自信がありました。」 Pierpont 氏は言う。「非常に有機的なプロセスだったと言えるでしょう。」

炎に対してもガイドカーブが使われ、形状、色、乱流等のプロパティが頂点単位で定義された。個々の炎には長さと向きを定義するガイドカーブ一つが与えられ た。炎の長さはベイマックスの飛行速度に関連していたが、必要であれば個々に調整が行えた。胴体や下肢等、ベイマックスの体の各部によって異なる角度を設 定することも、または平均を設定することも可能で、さらに、ガイドカーブを曲げてベイマックスの一連の行動をより明確に定義することもできた。 CHOP を使用して全長や向きを調節し、炎の勢いの強弱を表現した。

「このワークフローでは、シミュレーションとは無縁だったので、非常に迅速に作業確認が行えました。」ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの エフェクトアーティストである Jesse Erickson 氏は言う。「特定のフレームに行って求めている説得力のある結果が得られるまで設定を徹底的に修正しても、他のすべてを間違いなくあてはめることができま した。飛行機雲は遥かかなたまで続いていましたから、VDBがなければこのアプローチを採用することはできなかったでしょう。」

飛行機雲については、エンジンの原点を CHOPS に流し込み、カーブとして age (存在時間) アトリビュートとともに引き出した。これにより、クックをフロントローディングで実行しながら、ジオメトリを生データのまま保持することができ、ディスク キャッシュをせずに、リアルタイムよりも高速な再生が行えた。age (存在時間) アトリビュートは、まだ発生していないポイントを除去したり、ノイズオフセットやローテーション、密度やスケールランプを有効にしたり、バースベクトル (birth vector)に沿ってポイントを近づけたりといったことに使用された。これらのカーブは、可視化用には球で、VDB シークエンスとして出力する際にはパイロによる煙で埋められた。

「エンジンの設定は2週間ほどで開発され、制作期間中を通して改良が続けられました。」 Pierpont 氏は言う。「飛行機雲の設定も1週間以内で作られ、エンジンと同様に制作期間中を通して更新が行われました。一つのショットでエフェクトをプロトタイプ化 し、アーティスト用にパッケージ化することはきわめて直感的な作業です。」

異次元空間へ

『ベイマックス』の終盤のクライマックスシーケンスでは、時空のねじれに存在する隙間を意味するワームホールのような背景を制作する必要があった。これは 作品の中でかなりの重要度を占めるショットだ。ディレクタは、この映画の非常に重要な“異次元空間へ”のシーケンスで使用する唯一無二の背景の作成をエ フェクトチームに委ねた。

「因果的動的三角形分割として知られている量子重力の調査で出会った時空構造理論によって引き起こされるフラクタルな世界をイメージしました。」ウォル ト・ディズニー・アニメーション・スタジオでエフェクトチームのシニアリーダーを務める David Hutchins 氏は言う。

Houdiniは、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの背景プランニングプロセスにおいて必要不可欠なツールで、完全にアニメーションさ れ、極座標で表現された3次元のボリュームベースのフラクタル、“マンデルバルブ”と呼ばれる古典的なマンデルブロフラクタルの発展形を用いるモデリング に用いられた。このアルゴリズムの変化形に形状やアニメーションのオプションの多様性を提供するパラメータを追加した。


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