Posted 4月 06, 2022
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REALTIME I A Discovery of Witches S2 I VFX Breakdown



時を行き来する魔女、ファイアドレイク(ドラゴン)、謎のヴァンパイア、デーモン

デボラ・ハークネスの「オール・ソウルズ」三部作を原作とするイギリスの TV ドラマ「ディスカバリー・オブ・ウィッチズ」。シーズン 2 は、「ありふれた風景に潜む」者たちから、禁断の物語が幕を開けます。 歴史学者で錬金術を研究するダイアナ・ビショップが、調査のために訪れたオックスフォードで「アシュモール 782」(「生命の本」とも考えられている) と出会い、ヒーローの旅が始まります。現代と 16 世紀エリザベス朝ロンドンを「時間を編む」ように行き来し、シーンにはスクライング (幻視) の魔法、ファイアドレイクから、FX による壮観な建築物などが登場します。REALTIME は、Houdini を使用して「オンセットサポート、プリビズ、さまざまな VFX の魔法」を実現し、この魔法世界を実現しました。





REALTIME のマーケティングディレクタ Lauren Brady 氏は説明します。「REALTIME では、エムが煙を使ったまじないの儀式でレベッカを呼び出した「スクライング」の魔法、最後の数話に登場するファイアドレイクのコーラ、シリーズを通して登場する細かいシーン (果物の腐敗など) で、Houdini を使用しました」

スクライングの魔法は、雲や水面の反射といった要素を用いて情報を「幻視」するためのもので、「幻視者」は情報を集め、予言します。この手のオンスクリーン FX は、Houdini を使って簡単に作れます。REALTIME の皆さんに、その方法を語っていただきました。





Q: スクライングの魔法シーンとレベッカのコンセプトは、フォトグラメトリを使用し、パーティクルエフェクトでトラッキングしたように見えます。このプロセスでどのように Houdini を使用したのか、説明していただけますか? シーズン 2 でエミリーがレベッカと接触しようとさまざまな試みをし、時間の経過とともに、FX の様相が変わっていきます。エミリーの試みに応じて、煙や粒子が強まっていきます。プリビズやビジュアライゼーション、ポストデベロップメントのプロセスはどのように進みましたか?





Graham Collier (リード VFX アーティスト): 当社の CG ディレクタである Ian Jones が、このシーケンスのプリビズをかなり早いうちから作成していました。番組のクリエイティブチームと密に連携し、実写プレートから始めました。3ds Max や tyFlow 内でシンプルなパーティクルシステムと基本的なジオメトリを使用して、エフェクトを大まかに生成してから、After Effects で素早く要素をフッテージに統合しました。







これは、シーケンスのスケールやダイナミクスの見積もりに、とても有効でした。コストのかさむシミュレーションやレンダリングを行わずに、シーケンス全体で FX をどう構築するかを視覚化できました。このプリビズは、撮影時もガイドとして役立ちました。シーケンスを担当する編集部門や FX 部門は、ポストデベロップメントを足掛かりに作業を進めました。





FX チームが、詳細な Alembic 3D メッシュを用意してくれました。その後、Houdini を使用してフォトグラメトリの周囲に Velocity の軌跡のボリュームを作成し、サーフェス全体でパーティクルや流体を駆動できるようにしました。これらを別の煙レイヤーとミックスし、煙が形を作っていくように見せました。課題は、煙レイヤー内で実写要素をミックスする方法を見つけることでした。最初は実写要素からパーティクルと流体のカラーを駆動しようとしましたが、それではレベッカの形が大きく損なわれてしまいます。コンポジットに対するコントロールが必要でした。





ボリュームクリッピングを使用し、背景パス/前景パスとして要素をレンダリングするのが最善策だろうと考えました。そうすれば、煙レイヤー内で実写要素を簡単にミックスできます。ディープ合成でもできたかもしれません。しかし当時は、細かいボリュームによる追加のデータ量を気にしていたこともあり、同様の結果をより簡単に得られる方法を選択しました。



ファイアドレイクのコーラ



Q. コーラの制作プロセスと、煙や色とりどりの形状がアニメートした火に変化する素晴らしいシーンについて教えてください。

Graham: Graham: コーラの FX の作成はとても楽しい作業でした。ただし、番組でご覧いただいた、最終的なルックになるまでには、イテレーションとデザインを何度も重ねました。最初のコンセプト段階の後、コーラは ZBrush によるスカルプトモデルとなり、それから美しい羽毛が全身に加えられました。





羽毛は後の工程で、炎のシミュレーションの駆動に使用されました。





リギングとアニメーションを Maya で行ってから、ベイクしたメッシュを Alembic で Houdini に渡しました。Houdini では、クリーチャのベースジオメトリと、各羽毛の長さのスプラインのセットを用意しました。

Houdini は、複数のジオメトリピースをループするセットアップを構築するのに最適で、最初にクリーチャの小さな部分で作業してから、残り全体に簡単にイテレートできます。





羽毛の小さな部分で何度もテストを行って、炎のルックや動きを整えました。それぞれの羽根には、付け根にポイントエミッターがあります。羽根のスプラインに沿って方向ベクトルを作成し、火のシミュレーションの方向を決めました。満足のいくルックになったら、クリーチャ全体で試しました。





これはうまくいったのですが、問題もいくつか出てきました。1 つ目は、シミュレーションに十分なディテールを得るため、シミュレーションを分割する必要があったこと。2 つ目は、単なる火の玉にしたくなかったので、炎のディテールを表現できるよう、ネガティブスペースを設ける必要があったことです。そこで、羽毛のサブセットを利用することにしました。それを火としてレンダリングするのではなく、温度チャンネルを密度に転送して、非常に暗い煙レイヤーを作成しました。つまり「黒い火」です。





次に、これをアニメートしたときの挙動を確認しました。しかし、動いているコーラでシミュレーションを実行すると、ディテールがすべて失われてしまうことがすぐに判明しました。回避策として、静的メッシュでシミュレーションセットを作成してから、ボリューム変形でアニメーションすることにしました。この方法なら、動いている間もディテールを維持できます。また、アニメーションをサンプリングして、ボリュームにモーションブラーを追加しました。これはうまくいきましたが、彼女の動きや気分を反映する、ダイナミックな火にしたいと思いました。この目的に、アニメーションからシミュレートした別の火のシミュレーションセットを用意して、静的バージョンとミックスしました。





まだ終わりではありません。アニメーションから低解像度の煙シミュレーションを作成し、それを使ってクリーチャからパーティクルを移流させ、水の中をインクが流れているような細かいエフェクトを表現しました。これらのパーティクルは、より詳細な煙シミュレーションをさらに駆動します。

クリーチャのルックやアニメーションについて、フィードバックをたくさんもらい、何度も納品し直しました。各ショットに、ベイク処理する個別のシミュレーションがいくつもあったので、自動化ソリューションを見つけなくてはなりませんでした。

Houdini Engine と Deadline を使用して、ほぼワンクリックでショットの全シミュレーションを実行できるソリューションを構築できたので、ショットの納品を大幅に迅速化することができました。

Graham Collier 氏、REALTIME




このプロジェクトに参加したライティングチームは主に V-Ray と 3ds Max を使用していたため、すべてのシミュレーションは Houdini で VDB 形式で保存した後、V-Ray ボリュームとして 3ds Max に渡されました。パーティクルとジオメトリは、Alembic ワークフローを使用してアプリ間で簡単にエクスポートできました。

Q. 完全にレンダリングしたファイアドレイクの作成方法を教えてください。セットは CGI ですか、それとも実際のセットですか? ディテールまで見事に制御されていたので、見分けられませんでした。たとえば、洞窟のシーンでは、コーラをどのように組み込んだのですか?

Ian Jones (CG ディレクタ): 秘訣は、可能な限り実物を使うことです。セットを Lidar データでスキャンして、フォトグラメトリを作成しました。球状の HDRI をキャプチャし、関係するすべてのインタラクティブなライトの値を記録します。シミュレーションの際は、現実世界のスケールで作業するようにしました。火のレンダリングにはblackbody シェーダを使用し、現実の値を使用しました。私たちが扱ったのは主に魔法でしたが、リファレンスや方法はすべて、現実に起こり得ることをベースにしました。

Nicolas Seck (アニメーションディレクタ): 作業するうえで重要なのは、早い段階からクライアントの希望をしっかりと理解することです。「ディスカバリー・オブ・ウィッチズ」では、クライアントから実写プレートを渡され、カメラの動き、ライティングの変更、俳優の演技のタイミングにクリーチャを合わせなければなりませんでした。最初にいくらかブロッキングをし、方向性にずれがないかを確認しました。

それぞれのショットに合わせてディテールや要素を追加するのは、その後です。つまり、撮影した映像から、その場に実際にはいないクリーチャの演技のガイダンスとなるものを探すことも作業に含まれました。





コーラのシーケンスでは、セットでコーラの代わりのランプを持つテクニシャンを隠すという課題もありました。幸い、コーラからは炎に加えて煙も大量に発生させるので、それを有効活用しました。

最大の秘訣は、適切なエネルギーと、明瞭かつ表現豊かなポーズのフローを見つけることです。簡単そうに聞こえるでしょうが、忍耐と、間違った方向に進んで時間を無駄にしないように、アニメータやクライアントとコミュニケーションを絶やさないことが重要でした。そうしたことが適切にできてさえいれば、ディテールを洗練させたり、結果を向上させるためのリソースを得ることもできます。



果物の腐敗

マルメロは、バラ科マルメロ属に属す唯一の種です。梨のような実をつける仁果類 (じんかるい) の低木で、果実は黄金色に熟します。

Q. 果物の腐敗ですが、どのようにルックを実現しましたか? 使用したリファレンスは? 「実際に果物を腐らせた」のですか? どのようにヒントを得て、それを映像化したのですか?





Adrian Vickers (シニア CG ゼネラリスト): 個々のマルメロ (ボウルの中の中世の果物) とボウルの低解像度ジオメトリを作成し、Max から Alembic でエクスポートしました。次に、プロシージャルノイズを使用したカスタムアトリビュートで Vellum Tetrahedral Softbody シミュレーションをセットアップし、時間の経過とともにコンストレインの rest length を駆動しました。また、アトリビュートで個々のマルメロが腐り始める時間を制御したり、アトリビュートのオン/オフを切り替えて、スタッターエフェクトを作成しました。その後、低解像度 Vellum シミュレーションをもとに、高解像度ジオメトリのポイントを変形し、Cellular ノイズやその他のノイズで rest アトリビュートを使用して、サーフェスにディテールを追加しました。



「マルメロは、バラ科マルメロ属に属す唯一の種です。梨のような実をつける仁果類(じんかるい)の低木で、果実は黄金色に熟します」



マルメロの表面の追加ディテールとして、果実にそれぞれ汁の泡を加え、泡の周囲を盛り上がらせました。





新鮮なマルメロを腐ったマルメロに変えるなど、シェーディング用にさまざまなマスクを作成しました。静的サーフェスにポイントを撒き散らし、SOP Solver を使用して、Growth アトリビュートを作成しました。腐敗が生じる場所をベースに、果実に微細なディテールを表現するためです。その後、それぞれのマルメロでこれらのポイントを変形して、さまざまなグループに分割しました。





次に、インスタンス化されたジオメトリをこれらのポイントにコピーして、サーフェスにカビや小さいポリープなどのエフェクトを作成します。POP を使用し、追加のディテールとして、腐敗したサーフェスから発生する胞子を作成しました。最期に、コンポジティング用のカスタム画像平面を使用して、全体を Mantra でシェーディングおよびレンダリングしました。





終わりに...

Q. 御社では、ゲーム FX から TV VFX まで、Houdini を複数のプロジェクトにまたがって使用しています。それらの違いについて、どうお考えですか? 違いがありますか? たとえば、御社の Web サイトには、Game of Thrones: Winter is Coming / REALTIME のリールがあります。ゲームキャラクタが番組の俳優やセットに驚くほどそっくりで、不気味の谷など、一瞬で飛び越えてしまいました。「リアルとは何だろう?」、何が「リアル」なのだろう? と、疑問に思うほどです。

Adrian Vickers: GOT に関しては、私が思うに、違いはありません。Max でレンダリングする場合は、雪の FX を VDB や Alembic としてエクスポートしました。地図の俯瞰ビューはすべて Houdini で作成し、Max 内ですべてのキャラクタやセットと合成しました。

「ディスカバリー・オブ・ウィッチズ」のシーズン 3 の制作についてですが、答えは「イエス」だそうです。個人的にもシーズン 3 を楽しみにしています。シーズン 3 に関しても、REALTIME チームからの最新情報を期待しています。

魔法を共有してくださった REALTIME の皆さん、ありがとうございました!



About this author:
Lori Hammond
Author & Content Producer
https://www.linkedin.com/in/lolaartist/


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