Posted 2月 23, 2022
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フランク・ハーバートの名作 SF 小説「DUNE/デューン 砂の惑星」が、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によって映画化されました。舞台となる惑星アラキスでは、派閥が対立し、砂漠の世界の希少資源であるスパイスの支配を巡って争います。

広大なスケールで繰り広げられる「DUNE/デューン 砂の惑星」で、DNEG の FX 部門はいくつもの大きい課題に直面します。作業は 3 チームに分けられ、SideFX Houdini がメインのツールとして使われました。バンクーバーでは、Gero Grimm 氏と Chris Phillips 氏が FX リード、Lisa Nolan 氏と Albert Szostkiewicz 氏が FX スーパーバイザーを務め、砂のシミュレーションと街の破壊の作業を担当しました。また、モントリオールのリードたちが、惑星カラダンの海のシミュレーションをはじめとするタスクを担当しました。





Grimm 氏が率いるチームの最大の課題は、砂漠を突き進む巨大なサンドワームが登場するショットでした。Grimm 氏は言います。「最も大切なのは、スケールを示すことです。砂は単純なようで、極めて複雑です」

サンドワームショットの大半でエフェクトチームの出発点になったのは、背景チームから提供された砂漠の風景です。「背景チームは、砂漠を Houdini だけで作成していました」と Grimm 氏。

「私たちは、環境の作成に Houdini を多用するようになっています。この映画は、特にそうでした。環境チームは Height Field を使用して砂漠を作成し、私たちに送ってきます。また、ジオメトリもエクスポートしていました。砂漠は背景用にライティングおよびレンダリングされます。次に、私たちのチームによるシミュレーションで特定の部分を置き換えます」

Gero Grimm 氏、DNEG


シミュレーションは、サンドワームのブロッキングアニメーションでトリガーされます。サンドワームのモーションが、砂丘の Height Field の崩壊を駆動します。Height Field の浸食、変形、シミュレーションには、Houdini のツールや、FX TD の Ivan Larinin 氏が開発したカスタムの「dune ソルバ」を使いました。Larinin 氏は言います。「dune ソルバのおかげで、大規模なシミュレーションを行わずに、素早く砂丘の形状を生成できました。VEX や C++ でツールを実装しようと試みましたが、この映画に必要とされる膨大な砂漠を生成するには、スピードが不十分でした。OpenCL を使って作成した結果、10 倍以上のスピードで生成できました」

アーティストは次に、Vellum を使用して、砂丘の全体的な動きをシミュレートしました。シミュレーションを重ねて、ディテールを追加しています。Grimm 氏が説明します。「サンドワームの速度を Height Field に転送しました。それを使用して、Vellum シミュレーションと砂丘の崩壊を駆動およびトリガーしました。その後、それに対してセカンダリパーティクルシミュレーションを実行し、Vellum シミュレーションで砂の塊を時間軸で放出してから、モーションをより詳細かつ複雑にするためにパーティクルを追加しました。また、埃のシミュレーションも加えています」





大いに参考になったのは、砂漠用バギーやトラクターのビデオリファレンスです。チームはまた、砂丘固有の物理的性質を詳説した科学論文も探し出しました。たとえば、乾いた砂の「安息角」は約 32 度で、砂丘の側面がこの角度に達すると平衡状態となります。しかし、その構造はもろくもあります。「砂丘では、砂は転がって移動するため、どの砂粒も完全な球体です。そのせいで、非常に不安定です。底の方の砂をひとつかみ取るだけで、全体が崩れていきます」と Grimm 氏。

砂の爆発に関する研究では、爆発では塊になることが明らかになりました。ただし、空気抵抗によって、塊の外側表面は内側よりも速く崩壊します。DNEG チームは、これをシミュレートする Houdini スクリプトを作成しました。Grimm 氏は言います。「フレーム単位で砂の密度を計算しました。砂の密度が低い場所では、抵抗を高くしました。つまり、大きい塊は通常の重力にしたがって落下しますが、密度が低い場所の砂は、流れ落ちて消散します」より大きいスケールでは、内側の砂の崩壊はそう重要ではありません。波動、崩壊、渦巻く旋風という形で表れる乱気流のエフェクトの方が重要です。「通常のパーティクルシミュレーションで、このような乱気流すべてに対応できるわけではありません。そこでソルバを自作しました。パーティクル DOP シミュレーションと、VDB Project Non-Divergent といったツールを組み合わせて計算を実行し、個々の独立したパーティクルではなく、ボリュームのように動作させました。非常に良いディテールが得られ、ただ真っすぐ地上に落ちるだけの砂ではなくなりました。さらに、周りに舞う埃のシミュレーションも行って、全体を包み込むソフトなレイヤーを作成しました」





早期の砂のシミュレーションテストで分かったのは、ボリュームレンダリングとジオメトリレンダリングでは対処できず、ポイントベースの手法が唯一の選択肢であるということでした。Grimm 氏は言います。「大量のポイントを使わないと、見栄えが良くなりませんでした」エフェクトチームにとって、これは難問です。「砂丘には何千億ものポイントがありますが、すべてをレンダリングするのは不可能です」

鍵は、最適化でした。Grimm 氏は、ジオメトリの背後 (たとえばサンドワームやスパイス採掘者) や、前景のポイントの背後に隠れているポイントを特定する Houdini ツールを作成しました。「このスクリプトは、サンドワームやパーティクルの最初のレイヤーを識別し、その背後にあるすべてを削除します。レイトレーサーの仕組みに似ていますが、SOP による組み込みです。レンダーのプライマリのレイが認識しないものは、すべて削除したわけです。大量のポイントをカリングできました」と Grimm 氏。

このアプローチによって、エフェクトアーティストは Mantra ですべてレンダリングし、ビジュアルエフェクトスパーバイザから承認を得てから、比較的軽量な VDB ポイントクラウドをエクスポートできました。DNEG の R&D 部門は、VEX 構文を使用してポイント複製ツールを開発し、ショット固有の Houdini 設定を後工程に転送できるようにしました。Isotropix Clarisse でのライティングやレンダリングも可能で、移動しても情報が失われません。最終レンダリング時には、ポイント数は最大 100 倍まで増加しました。一番大きいサンドワームのショットでは、この数は 5 億ポイントに迫りました。





こういった効率化にも関わらず、シミュレーションオプションのイテレーションは時間のかかるプロセスです。Grimm 氏も同じ考えでした。「デイリー (レビュー) は行えませんでした。3、4 日ごと、ときには 1 週間空いたこともありました。データが膨大だったからです」これを迅速化するため、チームは大規模なシミュレーションをより小さいクラスタに分割しました。「うまくやれば、クラスタが相互に作用していないことは分かりません。実際には小規模な 20 のシミュレーションだとしても、1 つの大規模なシミュレーションのように見えます。全体のシミュレーションに 30 時間かけるかわりに、各シミュレーションを 30 分ほどで済ませられます」

FX リードである Grimm 氏は、個々のアーティストが障害を切り抜けられるよう頻繁にサポートしました。「アーティストも行き詰まることがあります。あちこちいじって適切な設定を探そうとしても、シミュレーションは思うように進みません」そんなときには、Grimm 氏は重要な要素 1 つに集中するようにとアーティストにアドバイスします。「サンドワームが砂の中を動くシーンで、本当に重要な部位はおそらく口先です。それならば、口だけをシミュレートし、うまくいくまですべてのフォースを調整した後で、変更を全体に適用します。私はこれを「頭のもつれをほどく」と呼んでいます!」





Gero Grimm 氏はプロジェクトを振り返ります。DNEG のエフェクトチームが「DUNE/デューン 砂の惑星」の驚異的な砂を作るために必要なツールは、Houdini が大半を与えてくれました。「ポイント複製ツールは R&D 部門が担当しましたが、それは DNEG が自社開発した OpenVDB データシステムを使用していたからです。それ以外は、ほとんど Houdini だけで作業しました。どのアーティストも、担当のショットを作業するために Houdini で自前のツールキットを開発しました。それをアーティストたちが共有したのです。素晴らしいコラボレーションでした」


コメント

  • richhones 3 年, 1 ヶ月 前  | 

    Just a heads up that you can all get your hands on the 'VEX-like' tool, VDB AX, that we used in Clarisse as part of the point replication workflow as it is now included in the open-source OpenVDB repository (https://github.com/AcademySoftwareFoundation/openvdb). This includes standalone tooling and even a Houdini VDB AX SOP! This repository also includes the VDB Points which is what we used to get the massive point caches into Clarisse, but that has been bundled into Houdini since 16.0!
    Richard Jones - FX R&D @ DNEG

  • GCharb 3 年, 1 ヶ月 前  | 

    In all honesty, I preferred the first movie, the FX are what saved this remake, at least IMHO, so great work and congratulations to the team at DNEG!

    • Denis Zaika 2 年, 11 ヶ月 前  | 

      It's hard to beat David Lynch.

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