Posted 5月 06, 2016
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ゲームのシネマティックトレーラーは、最も制作が困難なデジタルコンテンツのひとつと言えるだろう。たった 3、4 分という短い時間の中で、ゲームの「スピリット」や魅力的なキャラクタが織りなす心に響くストーリーを伝え、驚くようなグラフィックやエフェクトで見る者を魅了しなければならない。こうした条件のすべてを満たす新しいトレーラーの一つが、RealtimeUK による SMITE の 『To Hell and Back』 である。これは、ゲームに登場するキャラクタが多種多様な特殊能力を使ってバトルを繰り広げる 4 分間の壮大な作品だ。

作品の中核を成すのはもちろん SMITE のキャラクタであるが、それらを取り巻くゲーム世界も重要な要素として描かれている。作品はバトルで破壊される世界と、溶岩と氷から成る世界から構成されており、RealtimeUK の制作チームは自らがトレーラーの世界に没入し、キャラクタになりきって、ゲーム環境やエフェクトを作り上げていかなければならなかった。そういった意味において、Houdini はチームを支援し、このトレーラーのリアルな表現を実現するうえで極めて重要な役割を果たした。

RealtimeUK では、過去のトレーラー作品において Houdini を使用した水のシミュレーションを何度か行っていたため、その経験を元に溶岩の流れを表現した。この作品では、溶岩は常にキャラクタに脅威を与える存在であるが、氷の壁を打破できない。つまり、溶岩の流れの方向や速度、温度変化、粘性のすべてを慎重に制御する必要があったわけだが、Houdini で容易に行うことができた。

「Houdini の流体システムは非常にパワフルで、カスタムの温度アトリビュートを使用して、溶岩の粘性を容易に制御することができました」、 リード VFX アーティストの Graham Collier 氏は言う。「溶岩の流体は、表面温度が下がるにつれて徐々に凝固します。ボリュームを使用して、熱を保つ部分と氷に近づくに従い他より速く温度の下がるエリアを作りました。」

また、速度フィールドのフォースを使用して溶岩の速度と方向を制御し、単に自然な流れのままにするだけではなく、アーティストの思いのままに溶岩の流れをコントロールした。すべてのシミュレーションは、速度や渦度、温度などの様々なアトリビュートとともにディスクにキャッシュされた。「Houdini では、Pyro や POP ネットワーク内でこうしたデータを再利用して、煙や残り火などの二次的エフェクトを簡単に生成することができます。」Collier 氏は付言する。



RealtimeUK が 『To Hell and Back』 の見事な溶岩エフェクトを作り上げることができたのは、これまでにパイプラインの向上を蓄積してきたためだ。特に、Houdini から 3ds Max と V-Ray へのワークフローには、Alembic や VDB ファイルサポートへの、依存度が非常に高い。

このトレーラーでは、詳細なジオメトリとアニメーションを3ds Max から Alembic で出力することから始まった。Collier 氏は次のように説明する。「こうした Alembic ファイルは Houdini に直接読み込むことができます。Houdini の VDB ワークフローを使って、読み込んだジオメトリをボリュームに変換しました。ゲーム環境だけでなくアニメーションされているキャラクタも、すべて VDB に変換し、ディスクにキャッシュしました。こうしたボリュームを流体コリジョンに使用し、クリーンなローポリゴンのメッシュに再変換してリジッドボディシミュレーションを行いました。」

Houdini でシミュレーションされたジオメトリデータは Alembic ファイルとしてキャッシュした後、Alembic Proxy オブジェクトとして V-Ray に読み込んだ。「これにより、レンダリング時にデータの読み込みだけを行うことができ、非常に効率的でした。」Collier 氏は言う。「また V-Ray は、3ds Max のビューポート内でのメッシュ表示を全体表示と部分的な表示に切り替えることができ、メッシュのチェックを行う際に非常に便利です。」

パーティクルシミュレーションについても同様に、Alembic のワークフローを使用して出力された。Collier 氏は付言する。「V-Ray では、個々のパーティクルをポイントや球としてレンダリングすることができます。Alembic のファイル形式は UV や Object ID にも対応しており、カスタムアトリビュートの出力も可能です。」



溶岩のシェーディングには、流体サーフェスのカスタム温度アトリビュートを使用したが、これについて、Collier 氏は言う。「ルックの調整は、速度 (velocity) や渦度 (vorticity) のアトリビュートで行いましたが、Houdini ですべてを確認しながら作業を進めることができました。このデータを頂点 (vertex) アトリビュートとして出力し、これを使用してレンダリング時に V-ray シェーダを駆動しました。最後に OpenVDB 形式で煙と炎のエフェクトを出力し、V-Ray 内でボリュームグリッドを使って直接レンダリングを実行しました。」

溶岩のエフェクトだけでなく、崩れ落ちた廃墟や瓦礫の山の中を進んでいくキャラクタの表現もまた同様に、非常に困難な作業であったが、RealtimeUK は Houdini の Bullet ソルバを使用してこれを行った。ただでさえ処理負荷の重いキャラクタの周囲で、非常にたくさんの破壊表現を作成しなければならないことから、巨大なデータセットを取り扱うことができる Bullet ソルバの高速性能に期待が寄せられたためだ。

「破壊エフェクトの制作に Houdini の Bullet ソルバを採用したのは、その高速な処理能力によるものです。」Collier 氏は説明する。「3ds Max から出力した非常に詳細なジオメトリを、Houdini の VDB ワークフローで Volume に変換してから、クリーンなローポリゴンメッシュに再変換して、Bullet でコリジョンソースとして使用しました。」

ジオメトリは、Voronoi (ボロノイ) 破砕を使用して破砕ポイントであらかじめ分割された。「パックプリミティブを使い、すべてのリジッドボディを DOP ネットワークに持ち込んでシミュレーションを行いました。」Collier 氏は続ける。「SOP ネットワークを構築して、RBD にグルーやコーンなどのコンストレインをさらに追加しました。」

Houdini の Bullet ソルバによりシミュレーションを加速化し、その分、微調整に時間を充て、満足できる結果が得られれば、すぐにディスクにキャッシュした。「キャッシュされたシミュレーションについては、衝突データと破砕データの解析を行いました。」Collier 氏は言う。「このデータから、小さな破片や舞い上がったほこりなどの二次的エフェクトを、Pyro や POP のネットワークを使ってシミュレーションしました。」



結果的に RealtimeUK は、複雑なゲーム環境やエフェクトを SMITE のキャラクタが生きる『生』の世界として作り出すことに成功した。彼らが何より重視したのは、制作にかかる時間をできるだけ短縮し、細部に十分な試行錯誤 を重ねることであり、こうしたことから迷うことなく Houdini を採用した。

「我々にとって Houdini の最大の利点は、そのプロシージャルなワークフローです。」Collier 氏は言う。「設定さえしてしまえば、入力データを変更するだけで繰り返し再利用することができます。そのため、その後の設定にかかる時間を大幅に削減し、複雑なシミュレーションを簡単に更新することも可能で、こうしたことは、度々生じるアニメーションの手直しやアセットの更新、ディレクタのフィードバックなどを考えると非常に重要です。」


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