「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」の最終決戦では、巨大なエレメンタルズがロンドンのタワー・ブリッジを襲います。もちろん、これはミステリオが作り出した幻影です。それでも、このクリーチャーとそれが巻き起こす水、火、大気のエフェクトは、ロンドンの人々、そして観客の目に、リアルに映らなくてはなりません
このシーンでエレメンタルズを担当したのは、Sony Pictures Imageworks社のチームです。彼らがSuper Uber Elemental(SUE)と呼んだこのモンスターは、スタジオのアーティストとツールを武器に作り上げられました。その武器の1つが、Houdiniです。
エレメンタルズは、複数のエレメントでできている
「最大の課題は、このクリーチャーの巨大さに加えて、実に多様なエレメントでできていることでした。まず、身長30メートルという設定は、巨大で、脅威に映るはずです。そこで、巨大さを強調するために、重力による落下速度を「ごまかす」ことにしました」と、同社のシニアFX TD、ジェイコブ・クラーク氏は話します。
クラークが口にした多様なエレメントとは、溶岩、火、煙、噴石、岩、粉塵などです。それに加えて、中で火が燃え盛る水の触手は体の左右で上下に動き、頭は噴煙です。「これだけのスケールで、それぞれのエレメントを際立たせるのは、とても難しい作業でした。煙が水に流れ込むこともあり、どのエレメントがどうなっているかをはっきりと示すのは、至難の業でした」
タワー・ブリッジのシーンのSUEの「1ショット」に使われた、大量のレイヤーを示すブレイクダウン
それぞれのエレメントの特徴を際立たせるために、Imageworksはエレメントごとに「流れ」を作りました。火は水に沿って流れ、煙はそれよりも速く流れる。腕は崩れ落ちる岩。巨大なスケールだと、ディテールが損なわれることは、クラーク氏もわかっています。「サーフェス全体を見ると、さまざまなエフェクト(FX)が相互に作用し合っています。幸い、私たちには、SUEチームを率いるFXリードのステファニー・モルクがいました。そして、タフなアーティストチームのおかげで、サイズや複雑さの問題を乗り越え、この映画のハイライトとも言える、ダイナミックかつ驚異的なSUEが完成しました」
FXリードであるセルゲイ・ボリソフがHoudiniのPyroシミュレーションツールの上に、1枚のレイヤーを設計し、密度のアップレズとファームでのクラスタリングが可能になりました。果は上々で、この「インフェルノ」ツールは映画のさまざまな部分で利用されました。
Jacob Clark | Senior FX TD | Sony Pictures Imageworks火、煙、溶岩、水のシミュレーション
SUEの火と煙のシミュレーションの開発を指揮したのは、ImageworksのFXリードであるセルゲイ・ボリソフ氏です。クラーク氏はこう話します。「彼はHoudiniのPyroシミュレーションツールの上に、1枚のレイヤーを設計しました。これにより、密度のアップレズが可能になり、ファームでのクラスタリングが可能になりました。結果は上々で、この「インフェルノ」ツールは映画のさまざまな部分で利用されました。エレメンタルの顔を作ったのは、ドミトリー・コレスニクとマット・ハンガーです。2人はさまざまなテクニックを駆使して顔の動きを表現しました」
「空中に立ちのぼる煙をワールド空間で作ったところもあります。ただし、SUEの動きが激しいときには、煙の筋が空中を漂うのではなく、頭の動きに追従するように、ノイズに親子関係を設定する方法に切り替えました。煙のシミュレーションがスケール感を損なわないように、SUEキャラクタのアニメーションを直さなければならない状況も、数え切れないほどありました。また、SUEの感情をしっかりと表現するには(ほとんどが「怒り」)、使うテクニックに関わらず、ショットごとにたくさんのスカルプティング作業が必要でした」
ひび割れたプレート状のサーフェスもSUEの特徴です。そうしたサーフェスを表現するために、小さめの岩や石のかけらにはペイントしたマップを使い、ベースのモデルの部分は別途プロシージャルのディスプレイスメントノイズパターンを使って岩の質感を表現しました。「それを、ショットでアニメーションされたモデルにアタッチし直すのです。大きいプレートには特に注意しました。サーフェスに沿って動きはしても、サーフェス同士が衝突したり、周囲のエフェクトのレイヤーを貫通することがあってはいけません」と、クラーク氏。
次は水の流れです。クラーク氏によれば、水はSUEのエフェクトの中でも特にシミュレートが大変だったエレメントです。「コンポーネント1つひとつに、いくつもの方法を試みました。はじめに着手したのは水の触手で、数千万ものフリップポイントをシミュレートする必要がありました。幸い、シミュレーションを複数のマシンに分散してメモリの要件に対応できましたし、可能なイテレーションの回数も増えました」
「次は火です。まず、触手の内側を上昇するパーティクルをシミュレートします。このパーティクルをゆらゆらと光を放つサーフェスに変換し、水面に光を反射させます。内部のボリュームはチューブで埋めて、奥行き感を出し、内部の火のサーフェスから散乱する光が、周囲の水面に反射するようにしています。光を放つポイントは、水のチューブのサーフェスに沿ってシミュレートしました。クライアントが選んださまざまなライトのリファレンスを参考に、ポイントのオン/オフをランダムに切り替えています」
ImageworksはHoudiniでのシミュレーションを大量に行うだけでなく、完全にデジタルで作成した環境をいくつも作成した。
火が放つ光を作った時と同じく、Imageworksはアーク放電の光と、その光がシーンの環境やほかのエフェクトとインタラクションする様子も入念にシミュレートしました。この決戦のシーケンスはとにかく複雑です。
これには、空を飛ぶミステリオも含まれます(やはり幻影です)。ミステリオは、シールドと光線のエフェクトでSUEを倒そうとしているように「見せかけ」ます。
クラーク氏は言います。「ミステリオのエフェクトに関しては、それこそ知り得るテクニックをすべて試しました。パーティクルとボリュームを組み合わせ、時には、生成したサーフェスに沿ってそのパーティクルやボリュームが移動するようにしました。もちろん、必要な詳細レベルに合わせ、合成作業にも時間をかけて取り組みました。HoudiniのOTLをベースに、Sony独自のパイプラインツールを使うことで、ショット間でエフェクトをすばやく引き継ぐことができました」
ミステリオのエフェクトに関しては、それこそ知り得るテクニックをすべて試しました。パーティクルとボリュームを組み合わせ、時には、生成したサーフェスに沿ってそのパーティクルやボリュームが移動するようにしました。もちろん、必要な詳細レベルに合わせ、合成作業にも時間をかけて取り組みました。HoudiniのOTLをベースにSony独自のパイプラインツールも使うことで、ショット間でエフェクトをすばやく引き継ぐことができました。
仕上げ
Imageworksによる、SUEとその背景となるタワー・ブリッジのシーンのエフェクトシミュレーションは、ライティングチームがKatanaとArnoldを使ってレンダリングしました。「さまざまなエフェクトから発する光のインタラクションには、細かく注意を払いました。特に、火と稲妻から放出される光は、キャラクタや環境のすべての要素に作用するはずです」
スタジオで長い間使い込まれたHoudiniパイプラインのおかげで、シーケンスに素晴らしいエフェクトを加えることができました。さらに、先に触れた「インフェルノ」ツールセットのような新しい手法も大きく役立ちました。クラーク氏はこう付け加えます。「Oceanツールも活用しましたし、はじめてVellumも使いました。布製の旗のシミュレーションはすべて、Vellumで処理しました。大量の紙くずも同様です。おかげで、ショットに、ディテールによる味わいが加わりました。水のシミュレーションの多くには、分散シミュレーション技術を使いました。これにより、何百万にものぼるポイントを操作できました。ここまで大量のデータを1台で処理することは、とうていできません」
ミステリオの力を含め、多種多様なエフェクトシミュレーションが使われていることを示すブレイクダウン
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