プロセスの一部:Houdini と「ライオン・キング」
ジョン・ファヴロー監督の「ライオン・キング」は2019年に公開されましたが、ビジュアルエフェクトにおいて画期的な点が多数ありました。大規模なバーチャルプロダクションによる構想はもちろん、全編にわたる MPC Film 制作のフォトリアルな CG キャラクタと環境が注目を集めました (実写は冒頭の1ショットのみ)。
このフォトリアルな世界の構築のため、MPC Film は SideFX Houdini をはじめとするツールやテクニックを活用し、環境をプロシージャルに構築し、映画に登場する多数の動物のヘアーや、水、火、埃などの自然現象をシミュレートしました。
「ライオン・キング」制作のさまざまな領域に Houdini をどう組み込んだか、MPC Film のチームの方々に解説いただきます。
「ライオン・キング」のフル CG 環境
ビジュアルエフェクトを多用する映画の多くは、完全に人工的な環境を用いますが、カメラから最も遠い遠景は、デジタルマットペインティングに頼るのが普通です。しかし「ライオン・キング」では、デジタルセットすべて、プライドランド、ゾウの墓場、クラウドフォレストなど、完全に 3DCG で制作されました。
MPC Film のプライドランドの環境リール
ここでは、プロシージャルジオメトリとプロシージャルレイアウトの両方の作成が Houdini で行われました。例えば、ヌーの大群が押し寄せる峡谷は MPC Film の環境チームによって行われましたが、手でスカルプトしたモジュール式の断崖をプロシージャルジオメトリを使ってマージし、繋ぎ合わせました。
MPC Film のデジタルセットリードの Marco Rolandi 氏は説明します。「シェイプの処理に Houdini を使用し、アンビエントオクルージョン、ハイトフィールド、プロシージャルのノイズとマスクなどを使いました。追加のプロシージャルジオメトリも作成しました。典型的な例が、岩と崖の間の砂です。この追加のジオメトリとスカルプトしたオリジナルの地形をプロシージャルレイアウトのパスのターゲットとして使用し、岩や小石といった数百万のインスタンスで環境を埋め尽くしました。
「ライオン・キング」のプライドロック
もう1つの重要な場所、プライドロックにも同様に Houdini を使用しました。「プロシージャルな「接着剤」を作り、様々なピースをリンクしました。同時に、それを広範囲に使用して、草や植物のレイアウトも作成しました。地面や岩をターゲットジオメトリとし、はじめは岩や茂みなどといった大きめのアセットを点在させます。その後で同じものをアトラクタとして使用して、小石、草や茂みなどの小さいオブジェクトの無数のインスタンスを大量に配置しました」と Rolandi 氏。
次世代レベルのファー
「ジャングル・ブック」で MPC Film が行ったファーシミュレーションも既に最先端のシミュレーションでしたが、本作ではファーをまったく新しいレベルに引き上げました。同スタジオが独自開発したファーグルーミングソフトウェア Furtility を Houdini に完全に統合し、テクニカルアニメーション部門に提供したのです。
Kai Wolter 氏は、下記リンクで次のように述べています。「当社のプロシージャルグルーミングソフトウェアの強みを、Houdini のノードベースのワークフローやシミュレーション機能と組み合わせる絶好の機会でした。
(https://www.mpc-rnd.com/the-king-has-returned-advancing-technologies-for-the-lion-king/)
「Houdini の新しい Vellum ソルバを使うことで、ディテールが豊富なシミュレーションをより効率的に作成することができました。Furtility のプロシージャルワークフローに最近加えられた機能によって、アーティストはショットの必要に応じて、ダイナミックヘアーや各グルームのデータをより高度にコントロールできました」
ナラとシンバ。映画中のファー付キャラクタのために、MPC Film は Furtility のシステムを再調整し
Wolter 氏はさらに、「例えば wetness (湿度) など、すべてのグルームアトリビュートはネイティブの Houdini アトリビュートとして表示されるため、アーティストはシミュレーションセットアップの調整や、グルームのプロパティの上書きが必要に応じて可能でした。変更はグルームの上にレイヤーとして重ねられ、最終的に Katana を使うライティング部門でさらなる調整が必要に応じて可能でした」
水、水、様々な水
「ライオン・キング」には、複雑な流体シミュレーションを必要とする場面がいくつかあります。小川、川、滝、沼などが登場しました。
MPC Film の自然エフェクトリール
沼には Houdini の Ripple Solver を使用し、ソースポイントから発生するさざ波のパターンを使って平面を変形させました。小川や川は、Narrow Band (狭帯域) で作成しました。つまり、表層レイヤーだけのパーティクルをシミュレートしてから深度を必要に応じて増しました。
MPC Film の FX リード、Samantha Hiscock 氏は次のように説明します。「これにより、ディテールが必要ない水面下の不要な計算を回避できました。カスタム Velocity フィールドで作られた水流は、カーブに沿って煙を発生し、渦や回転のある、自然なルックの流体の動きになりました。最後に、リアルさを増すために木の葉を浮かせたレイヤーを重ねています」
滝は、Bifrost と Houdini を使ってシミュレーションし、同様のアプローチを取りました。カスタムの衝突物、スカルプトした岩、滝口 (水が落下する崖の最上部) に Turbulence (乱流) を加え、面白いシェイプにしました。その後、白波のみを放出する、液体パスを使用しました。「この規模の滝では、目につくほどの泡が水面に表れることはめったにありません。落ちる頃にはほとんど空気が水に溶け込んでいます」と、Hiscock 氏。
Hiscock 氏はさらに続けます。「フォースや粘度を変えた泡沫や飛沫のレイヤーをいくつも作りました。例えば、あるレイヤーは高く舞い上がる霧のような動作にし、別のレイヤーは引き寄せが弱くパーティクルが密集しないといった具合です。こうすると、引き寄せが強いグループから離れて、アイスランドのセリャラントフォスなどの高い滝で見られる、逆 V 字形のパターンが作られます。複数の白波レイヤーを十分な厚みを感じられるまで重ね、Density (密度) 、Age、Velocity などのパラメータをライティング部門に渡せば、レイヤーを適切にシェーディングしてくれます。ライティング部門と密に連携してアトリビュートのバランスを探り、可能な限り物理的に正確なものを作成しました」
大群の到来!
映画の重要なシーケンスの1つが、ヌーの大群が押し寄せる場面です。峡谷部分そのものを Houdini で作成することに加え、MPC Film は動物が蹴り上げる岩、土、埃を Houdini で生成し、シーンの混沌を高めました。
ヌーの脚に踏みつけられまいと必死で隠れようとするシンバも、足が土に食い込み、土煙を舞い上げます。「こういったヒーローショットでは、Houdini で詳細なディテールや、高解像度の Grains (粒子) シミュレーションを作成し、シンバの足にふさわしい大きさに圧縮または分割します。また、その上の岩やがれきといった、別のシミュレーションと相互作用するようにします」と、Hiscock 氏。
ヌーの大群によって巻き起こる粉塵は、大量のヌーと、それが覆っている広大な領域に対処するために、別のアプローチが必要でした。
最終的に、MPC Film は複数レイヤーを作成することになりました。ヌーが蹴り上げる粉塵には、チームは自動スクリプトを使用しました。すべてのショットに実行して、足と地面の交差ポイントを見つけ、このデータを使用して、事前にシミュレートしたキャッシュライブラリから、蹴り上げる粉塵をインスタンス化する場所としたのです。「この方法は非常に効率的でした。広範囲に存在するすべての動物を一度にシミュレートする必要がなく、蹴りを相互作用させる必要もありませんでした」と、Hiscock 氏。
峡谷の環境
次のステップは、繰り返し可能な「アンビエント」レイヤーの作成です。残りのスペースをこれで埋めて、時間の経過ともに粉塵が積もっていく印象を与えようというのです。はじめにレイヤーを生成しておいて、ショットごとに必要な場所に配置されました。蹴り上げられる粉塵にも、ヒーローショットがありました。例えば、何かの上で滑る、転ぶ、落ちるなど、1頭に独特のアニメーションが付けられていると、そのショット専用の粉塵の FX シミュレーションを実行しました。
「そして最後は、スカーがムファサを殺すシーケンスのクライマックスのセットアップでした。環境に配置した岩が、崖肌をゴロゴロと崩れ落ちます。これがシーンの説得力を増し、ムファサの足の下で砕け落ちる岩が、環境の不安定さと危険さを感じさせることにつながりました」と Hiscock 氏は締めくくります。
火の表現
「ライオン・キング」のクライマックスは、炎の中で繰り広げられるシンバとスカーの闘いです。もちろんここでは、炎と煙のシミュレーションが必要でした。チームが作業に取り組んだ方法は、ヌーの大群が巻き上げる粉塵とよく似ていて、キャッシュライブラリを作成し、必要なショットすべてあるいは環境の一部に配置していきました。
「火のルックを作りあげることには、相当時間をかけました。シニアアーティストが非常に詳細な高解像度シミュレーションを苦労して作成し、それに対して Turbulence (乱流) や Shredding (細断) の量など、主要なパラメータを変えて、ライブラリにバリエーションを作成しました。同じキャッシュをできるだけ多く再利用できるように、サイズのバリエーション (大、中、小) も作成しました」と、Hiscock 氏。
火は、メインの炎のレイヤーとそこから放出される煙のレイヤーに分割され、さらに、火の粉のシミュレーションをショットのあちこちに配置して、火が環境全体を包み込んでいることを示しました。「環境が危機的な状況にあることを見せながら、アクションも遮らないように、バランスを取ることがほとんどの作業でした。ショットごとにアーティストが手動でキャッシュを配置し、それをレイヤーとして重ねることで、面白い構図を探りました」
「火自体のレンダリングの負荷が非常に高かったので、そのシーンすべての火のキャッシュを主なレイヤーに分散して配置し、FX でもライティングでも、できるだけ簡単に扱えるようにしました」と、Hiscock 氏。
2020年2月に行われた、ライオンキング制作に携わった Izzie Kokuti 氏による Houdini Character FX セミナーの講演画像はこちら
コメント
azizkndri 4 年, 4 ヶ月 前 |
This is amazing work! I like the details!
xavierqdeidan 4 年, 4 ヶ月 前 |
This is just amazing, very realistic CG images.
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