CGアニメーションの制作にあたっては、スクリーン上に映るすべてをデザインし、構築しなくてはなりません。「シュガー・ラッシュ:オンライン」のような映画には、多彩なキャラクタとロケーションが登場します。アニメーションの舞台となる世界の構築は、Walt Disney Animation Studios のアーティストたちにとって、大作業です。スタジオ内のすべての部門が一丸となり、最終的なビジュアルを完成させました。
エフェクトアニメーション部門を率いるシーザー・ベラスケズ氏は語ります。「この映画で最も大変だったのは、作成しなくてはならない要素の種類が膨大だったことです。しかし、プロダクションデザイナのコーリー・ロフティスが率いるデザインチームは優秀で、すべてのWebサイト、ゲーム、ロケーションについて、それぞれがしっかりと特徴を持ったアートワークを提供してくれました。Houdiniのツールセットで部門間の連携を強化し、この作品に必要なツールや要素を構築しました」
さて、Walt Disney Animation Studiosのアーティストの皆さんに、「シュガー・ラッシュ:オンライン」の世界を構築するにあたり、グリッチ、スローターレース、ラルフジラ、ウィルスといった重要なシーン要素の制作に、Houdiniをどう活用したかを語っていただきましょう。
「シュガー・ラッシュ:オンライン」予告
ヴァネロペのグリッチの作成
「シュガー・ラッシュ」の続編にあたる本作では、アーケードゲームのキャラクタ、ラルフとヴァネロペが、住み慣れたリットワックアーケードの小さい世界からインターネットの広大な世界へと旅立ちます。ヴァネロペのゲームが廃棄処分になるのを防ごうというのです。
ヴァネロペには、ピクセル化のような効果の「グリッチ」があり、これをスクリーン上で再現する必要がありました。エフェクトスーパーバイザーのデービッド・ハッチンス氏は言います。「前作に続き、ヴァネロペのグリッチはキャラクタの重要な特徴です。本作では、序盤では彼女の強みになっていたグリッチが、後半では脅威に変わります。「スローターレース」ゲームに感染してクラッシュさせたり、最後には全インターネットに感染して危機に陥れるこのグリッチをビジュアル化するにあたり、エフェクト部門は、入念に開発およびデザインする必要がありました」

ヴァネロペのグリッチはピクセル化のようなルック
Houdini で作成した前作のグリッチエフェクトは、ネットワーク内で IsoOffset と Point SOP を使用していましたが、VDBとWrangle のVEXでアップデートして高速化を図りました。この作業を担当したのは、エフェクトアーティストのクリストファー・ヘンドリクス氏とデービッド・ハッチンス氏です。
アニメータがショット内でグリッチを視覚化できるように、簡素化したバージョンのグリッチエフェクトが、HDAとしてラップした状態で渡されました。Mayaでリグを動かしているのは、Houdini Engineです。
ハッチンス氏は語ります。「ヴァネロペのアセットは複数のメッシュ、ヘアプロキシメッシュ、ヘアのカーブとしてエフェクト部門に渡されました。このジオメトリをすべて結合し、レンダリング後のキャラクタの輪郭にフィットする、単体のVDB SDFを作成しなくてはなりません。大量のメッシュ編集を行い、曲線は polyWire SOP を使ってボリュームに変換しました」
ハッチンス氏は続けます。「キャラクタの輪郭に一致する、水平方向の輪郭カーブは、グリッドのコピーとポリゴンに変換したSDFを交差させて作成しました。SeamモードのBoolean SOPは、交差するポイントをカーブとして作成します。これらのカーブのポイントは、最終的なエフェクトで目につくキューブやコードの位置に相当します。ポイントクラウドマスクを作成し、グリッチ発生時にヴァネロペを部分的にマスクアウトできるよう、ライティング部門に渡しました。内部グロー(発光)用にはさらに、追加のボリューム要素も提供しました」
スローターレースへの参戦
「シュガー・ラッシュ:オンライン」のハイライトの1つが、ヴァネロペとラルフが参加することになる、「スローターレース」という過激なレーシングゲームです。「このシーケンスに対するクリエイティブディレクションは、エフェクトの面ではリアルなレースと感じさせ、同時にアドレナリン全開の猛ダッシュを見せたいというものでした」と語るのは、エフェクトリードのアレクサンダー・モアベニ氏。

スローターレースでは、煙の生成が大きな課題だった
スタジオから、ドリフトイベントをレースシーンのリファレンスにしてほしいという要望を受けました。この中にはラリードライバーであるケン・ブロック氏の映像も含まれていました。モアベニ氏は言います。「このエフェクトの主たる課題は、アートディレクションと制作スケジュールでした。シーケンス内のほとんどのショットでこのエフェクトを使用します。したがって、アーティストによる手作業の調整をそれほど必要とせずに、一貫したルックを維持する必要があったのです」
制作の初期段階では、レイアウト部門はレンズを使ったり、カメラを動かしたり、短時間で画像を切り替えたりと、実写の追跡シーンで一般的な技法を使ってさまざまに実験していました。モアベニ氏は言います。「2人のヒーローがカーレースをする長いアニメーションがエフェクトチームに渡されたことは、意図した以上の幸運につながりました。長いテストアニメーションがあったおかげで、エフェクトにふさわしいルックを作成できたうえに、制作の要件も解決できました」
このシーケンスでもう1つの難題が、タイヤから上がる煙でした。次の2つの条件で、煙を生成します。「1つはタイヤの回転速度と車体の並進速度の差です(バーンアウトまたは横滑り)。2つ目はクルマの進行方向への速度と横方向の速度の比です(ドリフト)。これら2つの属性をモデルパラメータとし、手動で定義した放射値をラベルデータとして使い、シンプルな線形回帰モデルをトレーニングしました。リグのデプロイ時に、このトレーニング済みのモデルを使うことで、新しいショットのおよその適正初期値を予測し、キーフレームを設定できるようにしました」と、モアベニ氏。
「スローターレース内の要素の初期生成は、HoudiniのPython API(HOM)と依存グラフシステム(ROP)を使って自動化しました。シーン全体のセットアップとレンダリングプロセスをHoudiniギャラリーリグでラップすることで、シーンファイルに追加したときに自動で実行されるようにしたのです。任意の数のショットにバッチ処理でリグをデプロイすれば、レンダリング画像が戻ってくる流れです。手作業での調整が必要になったら、アーティストは生成されたシーンファイルを開いてそこに調整を加えます。基本的に、Houdiniアーティストが使い慣れ、信頼しているツールを自動化したわけですから、全体的な制作戦略に、第一歩として自動化を組み込むのは難しくはありませんでした」モアベニ氏は言います。
スローターレースのクラッシュ
はじめのストーリーでは、スローターレースは、ラルフが「破壊不可能な建物」を壊したことでシャットダウンされるはずでした。ゲームの基本的なルールを破ったことで、ゲームのコアロジックが意図せず破壊され、結果として一体だった世界が連鎖的に壊れていくというのです。最終版では、ヴァネロペの代名詞のグリッチをコピーしてスローターレースのゲームコードと結合させるウィルスが、シャットダウンの引き金を引くことになりました。これらの間には互換性がないために、ゲーム世界の崩壊がはじまるというわけです。

ヴァネロペの代名詞グリッチがスローターレースのゲームコードに結合する
エフェクトアーティストのクリストファー・カージナン氏による事前のR&D成果を土台に、エフェクトチームはスローターレースのシャットダウンエフェクトの作成に取り掛かりました。エフェクトリードのクリストファー・ヘンドリクス氏はこう話しています。「まず、現代のビデオゲームにはどんな視覚的なバグがあるか、資料を集めからはじめました。たとえば、キャラクタリグが壊れる、テクスチャが消える、アニーションが飛ぶ、法線が反転するといったことです。直接的または間接的に、このような視覚要素をふんだんに使い、ゲームが不安定になっていること、つまり主人公たちの身に危険が迫っていることを示そうというわけです。そのうえに、ヴァネロペのグリッチからの追加要素とウィルスキャラクタも、不安定さが増していることを暗示するために追加しました」
このシーケンスは変更したりアニメートする必要のある要素が多く、最も複雑なショットには300を超える建物、クルマ、プロップをヘンドリクス氏いわく「切り刻んで、アニメートして、グリッチさせる」必要がありました。実際、スタジオは膨大なキャッシュやレンダリング処理に対応するため、サーバーファームの一部をこのシーケンス専用に割り当てていました。
技術面とレンダリング面でも大きな障害がありました。特に問題になったのが、パイプラインのデータ検証ステップにショットを通すときです。膨大な数のCG要素をアニメートして、壊れていたり、ダメージを受けているように見せています。つまり、データパイプライン側からすると、本当に壊れているのかどうかを判断するのが難しいのです。さらに私たちは、リファレンスからレンダリングノイズもたくさん取り込んでいます。このようなノイズを意図的に再現して使っていたのです。
クリストファー・ヘンドリクス | エフェクトリード
スローターレースでヴァネロペが運転するクルマのグリッチの詳細
建物やプロップをグリッチさせるために、アーティストはセット全体を広範なレベルでアニメートする方法を探さなくてはなりませんでした。同時に、必要があれば、個々のプロップに対するアートディレクションができる必要があります。この問題を解決してくれたのが、Houdiniのパックプリミティブでした。これを使うと、チームは、プロップまたはその一部を構成するポリゴングループを単一のプリミティブオブジェクトとして扱えます。
ヘンドリクス氏は続けます。「全体としては、バウンディングボリューム、ディスタンスルックアップ、その他の単純な属性を使い、プロップにいつグリッチが生じるかをトリガできます。この情報はさらに、後にパック解除されたジオメトリに適用されるプロシージャルアニメーションシステムに送られます。次に、細かいレベルに進み、受け取ったアート側面のコメントに応じて、オブジェクトごとに属性を修正したり無効にすることができました」
HoudiniのPython APIもまた、グリッチのワークフローの基盤をなしています。ツールやOTLを構築することで、作成したシーン定義をシンプルにしたり、アニメートすべきプロップを特定したり、該当するジオメトリ用に最適化されたギャラリーをベースにプロップのリグを自動的に構築することができました。ショットあたり数百ものオブジェクトをアニメートするには、リグからさらに追加でリグを構築できる機能は不可欠でした。
クリストファー・ヘンドリクス | エフェクトリード
ラルフジラは、無数の小さいラルフでできている
ラルフジラの登場
ウィルスはインターネット全体を破壊していくのですが、ヴァネロペとの信頼関係に対するラルフの不安も検知します。これが、感染した膨大な数のラルフのクローンに広がり、ラルフの形状をしたモンスター「ラルフジラ」になります。このモンスターは、ラルフとヴァネロペを追いかけ、世界を大混乱に陥れます。
エフェクトリードのDJビュン氏は語ります。「何十万ものアニメートされたクローンで、ラルフの怒り、苛立ち、満足といった感情を表現できるツールセットをデザインする必要がありました。身長約240メートルもの巨体をクローンで満たして作りあげるには、550,000ものラルフクローンが必要です。ラルフジラの全ショットで、5,443,098個のクローンをアニメートおよびシミュレートしました。GrainのクローンとMoshpitのクローン(下記参照)の数はショットごとに違いますが、Moshpitのクローン数は最大で4,000にのぼりました。ラルフジラは、部門間の広範なコラボレーションの成果です。初期の研究開発から作品完成まで、130人ものアーティストと制作スタッフが10か月がかりで制作しました」
ベラスケズ氏は言います。「数百万もの小さいキャラクタで構成されたキャラクタ、ラルフジラは、スタジオに独特の課題をもたらしました。マクロレベルでは、ラルフジラは怒り、幸せ、悲しみといったさまざまな感情を表現する必要があります。一方、ミクロレベルでは、個々のクローンはこのような感情を反映すると同時に、クローン自身がラルフジラ全体の演技をかすませるような目立ち方をしないようにしなければなりません」
このようなキャラクタを作成するために、スタジオはHoudini固有の機能をSkeleton Libraryと呼ばれる専用の群集ライブラリと組み合わせて使用しました。「Houdiniでは、Skeleton Libraryからデータを読み込み、修正したデータを再びSkeleton Libraryに戻す変換システムを構築しました。アニメートするクローンの位置をシミュレートするために、DOPでHoudiniのPBDソルバを修正しました。カスタマイズしたPBDソルバにより、パーティクルはアートディレクションに従ったフローフィールドに応じて、アニメートされたラルフジラのボディジオメトリに積み重なります。そしてスケルトン・ライブラリから抽出された移動ベクターで変換され、ソルバ処理の同じステップ内で衝突を実行します」と、ビュン氏。

さまざまな詳細レベルのラルフ・モデルがラルフジラを構成している
Moshpitは、PBDからポイントを読み込んで群集エージェントのボディの位置を取得し、球体やカプセルなどのプロキシジオメトリを投入します。これらは、ラルフのクローンの頭、腕と脚、胴体の代わりです。ビュン氏は続けます。「PBDから取得するポイントにはSkeleton Libraryからのアニメーション情報が含まれているので、カーブタイプのアニメート付きスケルトンをソルバ内でマテリアル化できました。バレットプロキシをポイントコンストレインとコーンツイストコンストレインに接続して、各タイムステップでスケルトンをターゲットにさせました」
ビュン氏はさらに続けます。「最大の課題は、各ボディパーツが物理的に正確に衝突するようにしながら、アニメーションの真実味を維持することでした。まず、Houdiniネイティブのラグドールシステムを調べましたが、これはバレットシミュレーションとアニメーションのどちらか一方しかサポートしません。つまり、ラグドールでは、アニメートした各ボディパーツが、衝突して押し合う動作を同時に実行させることは不可能でした。Moshpitのこの問題をクリアするために、2つのマイクロソルバを追加しました。1つは、速度ベースのターゲティングで、もう1つは、ソルバ処理においてランタイムでコンストレインの向きを更新するものです。当初は1つのソルバ内でPBDとMoshpitの両方を実行できるようにツールセットをデザインしましたが、後に、アートディレクションのしやすさとパイプライン管理のために分けることにしました」

ラルフジラには、複数のバレットシミュレーションを組み合わせて使っている
HoudiniのDOPネットワークを使ったラルフジラの最終成果について、ビュン氏はこう語っています。「とても直感的で簡単にデザインできることが証明されました。ラルフジラのセットアップに使うDOPとSOPはどちらも、ジオメトリの処理の大半をVEXで行っています。MoshpitとPBDの大量のジオメトリを適切に変形させる計算では、VEXのおかげでパフォーマンスが大幅に向上しました。SOPでもVEXを使用したことで、データ変換を高速化できました」
ラルフジラは、「シュガー・ラッシュ:オンライン」制作の鍵となったコラボレーションをよく表しています。ビュン氏は次のように続けます。「群集とエフェクトの2部門は、R&Dを行い、Houdiniでパイプラインを共同で開発し、まったく同じHoudiniベースのシステムを使ってラルフジラを作り上げました。2つの部門間のコラボレーションは素晴らしく、Houdini内でコミュニケーションもツールの共有も行うことができました」
ウィルスの攻撃
ゲーム世界の崩壊の引き金を引くウィルスも、コラボレーションが重要でした。「アーサー」と名づけられたウィルスは、アニメーション部門でのペンシルテストから始まりました。その後、ビジュアル開発とエフェクトチームによってクリーチャのデザインが進められました。プロシージャルモデリングテクニック、ワイヤ、POPおよびPyroシミュレーションを使ったHoudiniでの初期のアニメーションテストには、エフェクトアーティストのデービッド・ハッチンス氏、ピーター・デムンド氏、スコット・タウンセンド氏が参加しました。

エフェクトシミュレーション付き最終ショットまでのウィルスアニメーションのブレイクダウン
「その結果、ウィルスについてはっきりとしたビジョンを持つことができました。モデリング、リギング、そしてエフェクト部門へと渡される過程で、キャラクタをどのように作り込み、最終的なルックとダイナミクスを追加すればよいかが明確になっていたのです」とハッチンス氏。
アニメーション部門は、キャラクタの簡素化されたプロキシを使ってウィルスの位置と姿勢を定めてから、エフェクト部門に渡して演出を施してもらいました。最終的なウィルスキャラクタのリグを作成したのはヘンリック・フォルト氏です。ハッチンス氏はこう説明します。「新しい触手は、プロシージャルに生成し、ダイナミックワイヤシミュレーションを使ってアニメートしました。ワイヤの触手は、シミュレートされたボリュームのレイヤーで肉付けし、ゴーストのようなルックに仕上げました。最終的に、マゼンタの発光と内部のグローが視覚的なシンボルとなり、その後繰り返されるウィルス感染でも使われることになりました」
破壊を創る
映画全体を通して各種プロップ、クルマ、建物など、「シュガー・ラッシュ:オンライン」の世界を構成するさまざまな要素が破壊されます。スタジオは、ILM主導で開発された破壊ツールSimpleBulletを採用しました。
エフェクトリードのマリー・トーレック氏は語ります。「まずは、ILMと共同でSimpleBulletツールセットを私たちのパイプラインに統合させることから始めました。これは、部門および会社を超えた連携で、このトピックについてはSiggraphでも発表しました(「SimpleBullet: collaborating on a modular destruction toolkit」Published in: Proceeding SIGGRAPH ‘18 ACM SIGGRAPH 2018 Talks, Article No. 79, https://dl.acm.org/citation.cfm?id=3214814)。私たちはHoudini Engineによるモデリング検証ツールのセットアップにも関わりました。それにインターネット内の建物の倒壊のタイミングやカメラの配置を決めるプロキシシミュレーションでは、レイアウト部門とも連携しました。このプロキシシミュレーションは、最終的な高解像度のシミュレーションのガイドにもなりました」

ラルフジラはインターネット内でさまざまな破壊を行う
SimpleBulletをパイプラインに統合するにあたっては、スタジオからは、ツール一式はモジュール形式にして、アーティストでも簡単に理解できるようにして欲しいと要望されていました。「そこで、アレックス・モアベニ氏とティム・モリンダー氏の助けを借りて、破壊テンプレートを開発することにしました。これには、追加のマテリアルプリセットを渡す方法や、同時並行の粉砕を処理するスクリプト、Hyperion(Disney社独自開発のレンダラ)でのレンダリング用の属性をセットアップするスクリプトが含まれていました」と、トーレック氏。
トーレック氏は続けます。「もう1つ大きい問題になったのは、出力データをライティング部門が簡単に処理できるようにツールを最適化することでした。Hyperionでインスタンス化/レンダリングできるピース数について、ストレステストを行う必要もありました」
総合的に見て、本作品でこれらのツールを使用した結果、新しい破壊パイプラインが得られたとトーレック氏は感じています。「インターフェースも最適化され、洗練されました。「シュガー・ラッシュ:オンライン」での経験から、細かいインターフェースは作業がしづらいことが分かりました。可能な限りの簡素化をしているところです。また、PixarとILMの2社とのコラボレーションを継続し、SimpleBullet Suiteを最新の状態にして、新たな作品にも組み込めるようにしています」
「シュガー・ラッシュ:オンライン」の破壊シーンの制作でも、部門間の連携が全体の作業を円滑化しました。特にHoudiniが大きい効果を発揮しています。たとえば、Houdini Engineを使用して、モデリングアーティストがHoudini内のモデル検証OTLにアクセスできるようしました。トーレック氏は続けます。「弊社のソフトウェア部門のテクニカルディレクタであるナット・ミントラサク氏とデービッド・アグイラー氏の手を借り、Mayaにインターフェースを組み込みました。これでMayaアーティストは、通常はHoudiniで確認するスプレッドシート情報にアクセスできるようになりました。パイプラインは大きく最適化されました。Maya内でアセットを表示して承認を得る方法と、Houdini内でチェックする方法が一貫したことで、上流部門にアセットを送信する手間が大幅に省略できたからです」
オリジナル作品をベースにしたエフェクトは、観客がすぐにそれと分かる、認識しやすいものでなくてはなりません。たとえばアリエルが水から出てくる有名なシーンなどは、これが大きな課題でした。オリジナル作品とできるだけ同じに見えるように、水しぶきの形状やしたたる水がアリエルの髪の毛や体に絡む様子などに十分な注意を払う必要がありました。物理的な環境がまったく違ううえに、アクション満載のシーケンスであってもやはり、妥協は許されません。
ポール・カルマン | エフェクトスーパーバイザープリンセスたちの魔法
初期の予告編に、ヴァネロペが歴代のディズニープリンセスたちと出会うシーンがあり、このシーンは大きい反響を呼びました。スタジオにとって、これは難題でした。プリンセスたちに施すエフェクトは、それぞれのオリジナル作品に準じなくてなりませんが、同時にプリンセスたちが互いにしっくりと馴染まなくてはなりません。
カルマン氏は続けます。「映画「ポカホンタス」の葉を見返すと、参考とすべきさまざまな動きがあることが分かりました。自然な動きをする葉もあれば、動きが制御されている葉もありました。また、中には2つのシーンだけに登場する葉や、特定の曲の間だけ登場する葉もありました。本作品は、「ポカホンタス」のエンディングでジョン・スミスの船の帆が葉でいっぱいになるシーンを参考にしました。葉の形状や色、風に吹かれる様子などは、間に合わせのパラシュートでラルフを救うシーンに意図的に取り入れました」
エフェクトの基盤
Walt Disney Animation Studiosでは、これまでのプロジェクト同様、再利用可能なライブラリ「Foundation Effects」を作成しました。このライブラリには、エフェクトアセットやアートディレクションに沿ったシミュレーションが含まれています。Foundation Effects部門を率いるイアン・クーニー氏は語ります。「このハイブリッドなアプローチにより、アーティストはシミュレーションやレンダリングの前に、ショットを大まかに作り(ブロックイン)、視覚化できるようになりました。「このFoundation Effects (FFX)ワークフローは、大規模なエフェクトが使われる複数のシーケンスにわたり、複雑なエフェクトを提供するためのコア戦略となりました」

スローターレースで使用されたFoundation Effects
FFXシステムについて簡単に説明しましょう:FFX はカスタム Houdini Render Operator をベースにしているので、アーティストは Houdini 内で、パイプライン準拠のリグを半自動で作成できます。クーニー氏によれば、このシステムによって部門を超えて使用されるリグ作成の時間を大幅に短縮できたとのこと。さらに氏はこう続けます。「技術的な側面よりも、望ましいエフェクトの品質を向上させるイテレーションを素早く行えたことが大きいメリットでした」
Foundation Effects 部門のアーティストは、Houdiniを使用して、スローターレース用に各種の爆発、火の玉、渦巻く煙などをプリプロダクション段階でキャッシュとして作成しました。ボリュームおよびパーティクルシミュレーションは、主にキャッシュとしてエフェクトを生成するために使用されました。他の部門が最終的な Foundation Effectsアセットを追加したり、事前に視覚化できるようにするためです。クーニー氏は言います。「移動、スケール、不透明度などの調整に加え、アーティストは個々のエフェクトのタイムオフセットも容易に調整できました。これらのアセットはすべての部門で使用され、作品全体で共有されています」

Foundation Effectsチームが開発した、爆発のキャッシュ
群集の構築
「シュガー・ラッシュ:オンライン」のインターネット世界を作ることはつまり、多くの住人やクルマを作ることです。それにラルフジラ(前述)も加わり、やはり Houdini を活用群集風のエフェクトを作成しました。
たとえばクルマは、Houdiniで交通システムを構築しました。群集アーティストのジョシュ・リチャーズ氏は語ります。「最初に作ったクルマのスタイルは、定義済みのカーブに沿って移動するもので、元は高速道路や都市の交通網のシミュレーション用にデザインされたモデルを使いました。もう1つのタイプは、インターネット内の建物の周囲を旋回するクルマです。岩礁の周りを泳ぐ魚を参考にしました。このタイプの乗り物には、シーン内の建物の代わりにボリュームを作成し、ソルバを使って個々のポイントがそのボリュームの周囲を流れるようにしました」

「シュガー・ラッシュ:オンライン」の世界に含まれる広大なインターネット通信網は、Houdiniのシミュレーションによって作成された
群集アーティストのチュアン・グェン氏は、ラルフジラについてこう語ります。「これまでとは違う発想が必要でした。基本的なボディとボディの衝突にはグレインソルバを使用しましたが、各ラルフのクローンのパーツ同士の細かい衝突に関してはよりダイナミックな方法で、貫通をなくしました。また、フローフィールドシステムを作成し、合体してラルフジラを形成する各クローンがどこに移動するかをガイドするようにしました」
Houdini Digital Assetsは、エフェクトと群集をつなぐ橋渡しという重要な役割を果たしたと、グェン氏は語ります。「個別のモジュールを構築して、必要に応じて、群集に複雑度を追加しました。振り向かせる必要があれば、そのためのHDAを作成しました。群集をスプラインに沿って動かしたいときも、この動きに特化したHDAを作りました。私たちの部門のツールとエフェクト部門のツールにつなぎたいときにも、両部門ともに同じHDAを利用できるため、目的を達成することができました」
スクリーン上の要素
最後紹介するのは、インターネット内に登場する無数のスクリーンのモーショングラフィックスです。これらの作成にもHoudiniが使用されました。目的は、活発で動きのある環境を見せることです。
作成したユニークな要素は、レイヤー化して重ね合わせることで、さらに複雑に見えます。小規模なチームですから、スクリーンごとにゼロから要素を作成するのは避けたいものです。Houdiniの柔軟なツールのおかげで、イテレーションにかかる時間を大幅に削減し、スタイリッシュで動きのあるグラフィックアニメーションに集中して取り組めました。
ディミトリ・バーベロフ | エフェクトアニメータエフェクトアーティストのディミトリ・バーベロフ氏はこう説明します。「これを実現できたのは、Houdiniの強力なプロシージャルおよびタイポグラフィ関係のノードを使い、モーショングラフィックのライブラリと、複雑なインタラクティブUI/UXスクリーンを作成できたからです。形もサイズもさまざまな数百もの看板、コンピュータモニター、標識をこれらで埋め尽くしました。Houdiniなら、いくつかのパラメータを調整してマスターグラフィック1つを変更すれば、タイポグラフィのスタイル、動き、カラーの異なる、ユニークなバリエーションをいくつも作成できます」
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