SPECIMENS

by Paweł Grzelak

Specimens は個人プロジェクトで、「架空でありながらも、リアリスティックな水中生物のアニメーションをつくりたい」という長年の夢を実現したものです。

やあ、Paweł! 先日公開された生命体シリーズ、「Specimens」プロジェクトを拝見しました。はじめは、現実の深海生物の科学ビジュアライゼーションかと思いました。とても自然な動きで、すっかり魅了されました。シリーズすべてを見たいと、心から願っています!

こんにちは! Specimens が現実に存在する生物だと思ってもらえたなんて、光栄です。 完成しているのは 5 つだけですが、もっと大きい群れにしていくつもりです :)

「Specimens」の話に入る前に、ご自身について、それから架空の深海生物をつくるようになったいきさつを聞かせてください。3D をはじめたきっかけは?

3D と出会ったのは、今から 20 年以上前、私が 11 歳の時のことです。ゲームの MOD (改造) が面白そうだと感じたのです。最初にトライしたのは、GTA 3 のゴルフカートのホイールを ZModeler というソフトウェアでカスタマイズすることでした。MOD はすぐに諦めましたが、3D は私の趣味となり、大人になった今でも続いています。また、職業にもなりました。

これまでにつくった作品や仕事を教えてください。

趣味としては、ソフトウェアを触っているのが好きで、入手できる範囲で各種試してきました。職業としては、主に 3ds Max と V-Ray のペアを使ってきました。職場では、商業インテリアのデザインやビジュアライゼーション、家具 (主に椅子やアームチェア) や、ソファ、ランプ、ウォールパネルなど、さまざまなインテリアデザイン要素に何年も携わってきました。カーペットや壁紙の図案を作成したこともあります。また、CAD での 3D モデリング (主に Rhino) もたくさんやってきました。

Houdini との出会いを教えてください。

Houdini を初めて知ったのは、ポーランドで行われた 3D フォーラムでした。Arkadiusz Rekita 氏によるサボテンのエコシステムのシミュレーションを見て、その画がすっかり気に入ってしまいました。信じられないディテール量で、1 つひとつのサボテンが違っています。そのうえサボテンにはクモの巣がかかり、クモの糸からは小さいしずくまで垂れています。プロシージャルのパワーを知ったのはそのときです。当時の私が知っていた従来の方法では、これをモデリングするのは事実上不可能でした。面白いことに、このグラフィックは現在でも「SideFX ギャラリー」のバナーです。彼の投稿や、他の画像もこちらで見ることができます。

しかし初めて Houdini を試したときには、使いたいとは思えませんでした。当時は、今とは違って使い方を学べる教材が簡単には手に入りませんでした……

Ecosystem simulation by Arkadiusz RekitaArkadiusz Rekita 氏によるエコシステムシミュレーション

Houdini を使い続け、さらに深く知ろうと思った動機を聞かせてください。

3D と同時に、コーディングもよく実験していました。サボテンのエコシステムに出会って数年後、Adam Swaab 氏の講演を見ているときに、Houdini が自分にぴったりのツールだと思いました。3D とコーディングをシームレスに組み合わせられるからです。この時にやる気になりました。主に Entagma のチュートリアルのおかげで、Houdini を使いこなせるようになっていきました。現在は、Houdini が私のメインのソフトウェアです。

最新プロジェクトの「Specimens」の話題に移りましょう。どのようなプロジェクトですか?

「架空でありながらも、リアリスティックな水中生物のアニメーションをつくりたい」という長年の夢を実現する個人プロジェクトが、Specimens です。物心ついた頃から、私は 2 つのことに同じくらい強い関心がありました。深海の生物の記録と、顕微鏡やマイクロレンズを通して見たときの独特な世界です。私の目標は、その 2 つを組み合わせたアニメーション作品のシリーズをつくることです。

アイデアはこうです。深海探査チームの一員だと想像してください。どんな生き物に出会えるでしょうか? 「Specimens」は、アートキュレーションのプラットフォーム Verse Works によるバーチャル展示、「Reconciliation with the Living」(生き物との調和を築く) の展示作品でした。作品は、NFT としても販売しました。

クリーチャはどのようにデザインし、つくったのでしょう?

クリーチャはそれぞれ、見た目が独特なだけでなく、挙動も変えたいと思いました。2022 年の数ヵ月間にわたり、「Specimens」たちは自然に生まれ出てきました。つくるクリーチャの数もはっきり決めていなかったので、ゆっくりとしたプロセスで、楽しむことを最優先にしました。

すべてが、さまざまなやり方で自然を楽しんでいるときに「生まれ出て」きたものたちです。たとえば、「B」は、田舎で友達とポーチに座ってゆっくり過ごしていたら、頭に浮かんできました。その時に描いたスケッチが、こちらです。

Specimen B - さまざまなシード

Specimen B - 最終アニメーション

「C」に強く影響しているのは、カツオノエボシ (電気クラゲ) です。驚くような外観の、とても面白いクダクラゲの一種です。透明な浮き袋のアイデアを取り入れましたが、膨れたり、収縮したりする不規則な動きを付けたらどう見えるか、試してみたいとも思いました。一度、このクラゲがアゾレス諸島の浜辺に打ち上げられているのを見たことがあります。

Portuguese man o' war. (カツオノエボシ)

Specimen C - 最終アニメーション

そして、少し気持ち悪いかもしれないですが、「E」は次の質問に対する私の答えです :)
そして、少し気持ち悪いかもしれないですが、「E」は次の質問に対する私の答えです :)

ジオメトリは、シンプルなノイズを使用してアニメートされた球に取り付けられている、ゴム状の Vellum 拘束によって引き出されます。

セカンダリの Vellum シミュレーションをずっと高密度なメッシュで実行すると、微小な皺ができます。

Specimens はすべて、最初から最後まで Houdini でモデリング、アニメート、レンダリング (Redshift を使用) しました。すべてのモーションは Vellum を使用してシミュレートされ、大部分のアニメーションはプロシージャルに付けています。キーフレームがどうも好きになれないのです。たとえば「E」では、ジオメトリは、シンプルなノイズを使用してアニメートされた球に取り付けられている、ゴムのような Vellum 拘束によって引き出されます。全般的な動きができたら、セカンダリの Vellum Vellum シミュレーションをずっと高密度なメッシュで実行すると、微小な皺ができます。無重力状態は、Drag (抵抗) フォースとわずかなノイズを追加することで簡単にシミュレートでき、現実感のある水中環境をつくり出せます。

以前の Houdini プロジェクトで、モーションを操作する方法を見つけました。そのやり方なら、アイデアを楽に素早くイテレートできます。原理はシンプルです。SOP で簡略化されたモデルで動きをデザインし、それを、Vellum ジオメトリの restlength アトリビュートをフレーム毎に更新することで、シミュレーション中に使用します。このテクニックを最初に使ったのが、次のキノコのシミュレーションです。

こうすると、たとえばノイズベースのテクニックだけでなく Bend などの基本ツールも使用して、ジオメトリとジオメトリの相互作用を気にせずに、プロシージャルな動きをデザインできます。シミュレーションを使用すれば、オブジェクトに自己衝突させたり、外部のフォースに反応させたりできます。その 2 つを組み合わせると、複雑な動きを意図的につくり、それを物理エンジンで制御できます。

波打つモーションは、「ボーン」と Point Deform SOP で実現しました。

シンプルなシミュレーションからはじめ、より複雑なシミュレーションに進んでいくと、たいていは、求めている結果を短時間で得られます。

Houdini の要はプロシージャルです。私は、ことあるごとにシステムをつくり、それを楽しみ、さまざまな出力を素早く試しています。

困難や壁に遭遇したことはありますか?

初期の段階では、Specimen を 1 つずつ水滴の中に入れて見せようと考えていました (境界のない暗い水中空間ではなく)。今でもそのアイデアは気に入っているのですが、スケール感を維持する観点で問題がありました。また、すべてのシーケンスを追加の屈折レイヤーを通してレンダリングしようとすると、時間がかかりすぎます。Specimens 自体がすべて、既に屈折しているからです。

このプロジェクトから得た面白いティップスやアドバイスはありますか?

誰にでもいつかは役立つだろうティップスは、素早い RBD 交差除去 (RBD Deintersection) です。Bullet ソルバを使用して、ジオメトリをバラバラに広げ、自己貫通しないようにします。私は Matt Estela 氏のリポジトリをよくチェックしています。ここには Houdini を使いこなすためのティップス が大量に詰まっています。

現在はどんな活動をされていますか?

個人プロジェクトは常に複数あり、仕事のプロジェクトの合間に進めています。最近は、仮想世界に存在する作品を一部、現実世界で形にしたいと考えています。一番単純な解決策は、印刷物です。今後数週間のうちに、最近魅了されている水生生物である「ガラス海綿類」をヒントにした、架空のクリーチャのポスターコレクションを発表します。ところで、ガラス海綿類は地球上最古の生き物なんですよ。下の 3 枚の画像は、最新プロジェクト「Symplasma」の一部です。既に 12 枚あるのですが、もっとつくっていく予定です!

2 年前に、ペンプロッタアートも試しはじめました。シンプルな 3D 結晶 を生成する Houdini システムを作成し、それを2D ハッチングパターンに変換、プロットできるようにしたのです。今は、リーフジェネレータにも着手したところです。古い生物学の本のような葉の絵をプロットできるようにしたいと考えています。アニメーションは、このプロジェクトのために開発している成長システムの副次的な成果物です。



Genuary の投稿も拝見しましたよ :) #getyourboneslicer

ああ、Genuary! あのようなオンラインイベントに参加したのは初めてでした。いつもは、プロジェクトについて考えすぎてしまうのですが、何かを短時間でつくる、1 セッションだけ、微調整なし、というアイデアに乗ってみることにしました。ボーンスライサジェネレータのプロトタイプをつくった日は、「人体の不思議展」を訪れ、見事に加工された人間の大腿を見た後でした。家に帰った私は、滑らかな外側のサーフェスと繊細な内部構造という素晴らしい対比を考慮するシステムをつくることにしました。もちろん、一晩でラピッドプロトタイピングを行い、複数のバリアントを生成するためには、Houdini に組み込みの Wedge 機能が大いに役立ってくれました。

別の Genuary の晩には、粘菌の再現に挑戦しました。根のような経路を作成して領域を「走査」しながら食べ物を探す、群体性の種です。この時は、FindShortestPath SOP がとても役に立ってくれました。

作品についてのお話、ありがとうございました。Paweł!
あなたの作品はどこで見られますか? どこであなたの情報を得られるでしょう?

私のウェブサイトは現在作成中ですが、Specimens プロジェクトのページは既に立ち上がっています。また、TwitterInstagramYoutubeBehance でフォローしてください。私の作品に興味をお持ちいただき、ありがとうございます。Houdini はここ数年、ほとんどの制作のメインツールでした。今後もそうでしょう!